受けてみた。【葵】

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受けてみた。【葵】

甘えだと思う。 自分を好きだと言う人に、答えも出さないくせに、 こうして…会ったりして。自分の寂しさを、紛らわしてる。 「葵」 佐伯さんの車の助手席は、もう…何回目かな。 時々信号が赤になると、俺の手を要求してくるので、 仕方なく重ねてあげる。最近は、抵抗する気も失せていた。 「次は何食べ行こうか?」 優しい声と手のひらに、俺はいつも…申し訳なく思う。 甘やかされてるんだ。 相手が俺を好きだからって、答えを後回しにして。 「箱根の黒たまご」 ワガママを…言ってる。 「本当にそう思ってる?」 「…何で?」 「なら泊まりだよ?」 「……」 泊まりとなると、そういうことが含まれるということで……返答に詰まる俺を、 「冗談だよ」 佐伯さんはいつも…逃してくれる。 『待ってるよ。葵が俺を好きになってくれるまで』 二人で会うようになったばかりの頃に、そう言われた。 それから、佐伯さんはその約束を本当に守ってくれている。ただ、会って、触れるだけ…… 下にある手をちょっと握ってみた。 「ねぇ佐伯さん」 「何?」 「俺といて、楽しい?」 「楽しいよ」 「毎回、ご飯食べ行くだけなのに?」 「……」 指先で、名残惜しそうに俺の手を撫でて、 佐伯さんはハンドルに戻った。     
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