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「いつも、思ってるよ…このままじゃ、ダメなんだって」
「葵、急がなくていい」
「ううん、急がなくちゃ。…急がなきゃ…今じゃなきゃ、あの人はきっと……俺から、一生…出ていかない」
追い出す自信なんかないけど、
「佐伯さんはいい人だから、…もし他にいい人ができたら…俺はいいから、そっちへ…いって?」
言い訳みたいに言った。キスをする、その前置き。
微かに触れるその行為の、許しを請うように、伏せた目を上げる…間もなく、それを確かなものにするくらいの、キスをもらう。
久し振りだった。誰かが…自分の中に入ってくる、感触。
「ん…っ」
一瞬心が別の体温を感じて、拒絶したような気がした。体では、受け入れられても。
「…っはぁ…」
「葵…キスをする前の台詞じゃないよ、それは…」
耳元で囁かれる。
「他の人なんて、考えられない」
両手で髪を、頬を撫でられて、目を閉じる。
この手がヒロのものだったらなんて、もう考えない。
たった一人、好きな人を傷付けた…罰を、
甘んじて受けようと、思う。
佐伯さんはいい人で、かっこよくて、お金持ちで、
世の女性たちが放って置かないような、
俺なんかにはもったいない人だけど。俺にしたら……
ヒロ以外は、みんな同じだ。
「ずっとこうしたかった……もう一度、しても?」
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