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引越し
「ふう」
朝一番に引越業者が運び入れたダンボールを見て柳 大輔はため息をついた。積み上げられたダンボールを開封して、整理するにはまだまだ時間が掛かりそうだ。もっとも大輔には十分時間がある。都会で商社に勤めて5年で退職した大輔は、人口20万ほどの地方都市I市に2DKのアパートを借りて引っ越してきた所だ。働かずに数年暮らせる程度の蓄えはある。
アパートは和室と洋室の2DKだが、家賃は格安だ。そもそも平成の大合併でI市になったとは言え元々は市域に含まれなかった田舎。最寄り駅は私鉄だが、都心に出るには車で30分ほど走って隣の県のF市まで行ってJRに乗る方が早い。この辺は車が無いと生活には不便な所だ。
布団を仕舞おうと大輔が4畳半の和室の押入れを開けると奇妙なものに気がついた。押入れの下の段にクリアホルダーに入ったノートが落ちている。
押入れの上段と下段を分ける中板の下側にクリアホルダーが両面テープで貼り付けてあったのだろう。年月が経って、粘着力が低下して落下したようだ。中板の方にテープの跡がある。おそらく以前の住人が押入れの中に隠したものだろう。
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