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怜には遥香が自分の方にゆっくりと倒れてくるように見えた。勢いよくイスから立ち上がり、倒れてくる華奢な身体が床にぶつかってしまう前になんとか抱き留める。打ち付けてしまったお尻が痛かったがそんな事は気にしない。
「ハル!ハル!どうした!?」
怜は抱きしめたまま、何度も遥香の名前を呼ぶが、遥香は荒く呼吸をするだけで、目を開けることはない。
柔らかな身体は高い熱を孕みぐったりと怜に預けられている。
「おい、東雲!」
先生も遥香が倒れたのを見て、授業を中断し駆け寄ってくる。
「だいぶ熱があるな…」
額に手を添え、熱を測る。抱いている怜でもわかるくらい遥香の体温は高かった。
「ひとまず保健室に運ぶ」
先生は遥香の容態を手早く確かめると、担架を取りに行くため立ち上がる。
「先生!ハルは俺が連れていくから」
怜は遥香の膝の裏に手を入れ、反対の手で細い肩を支える。そして少しだけ動いて位置を調節すると、ひょいっと遥香の身体を抱き上げた。
(うわっ、ハルってこんなに小さくて軽いんだ…)
付き合い始めて1ケ月になるのに、2人はまだデートで手をつないだことくらいしかない。怜にとってこんなに遥香に触れるのは初めてなのだ。
遥香が苦しい思いをしている中不謹慎だとは思うけれど、大好きな彼女をお姫様抱っこにしているのだ。考えてしまうのは仕方がない。
「及川君、先に行って保健の先生に話してくるよ!」
「あ、ありがとう」
だいぶ不純な思いにとらわれていたようだ。遥香の友達が声をかけてくれてよかった。
怜はやましい気持ちを振り払って、改めて遥香を抱く腕に力を込める。そのまま遥香を保健室へと連れて行った。
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