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数寄屋 b
普段と変わりなく、マスターとママがテキパキと効率よく大皿に乗った多種多様な料理と、人数分の小皿などを配膳していった。途中からはマスター一人に任せると、ママは一人一人に飲み物のお代わりを聞いていった。皆はお代わりを頼んでいたが、種類は変えずにいた。これもいつも通りだ。私も相変わらずのアイスティーだ。
「えぇーっと…絵里さん、よね?」
私の注文を聞き終えた後、ママは笑顔のまま絵里にもお伺いを立てた。
「え、あ、は、はい…絵里です」
と絵里は何だかぎこちない調子で、顔も合わせたかの様な笑みを浮かべて返した。
そんな様子が面白かったのか、ますます笑顔雨の度合いを強めつつ、絵里の前に置かれた空のワイングラスを指しつつ聞いた。
「どうだった、そのワインは?お口に合ったかしら?」
「え、えぇ…まぁそのー…」
とまだ拙いままに返していたが、
「えぇ、お世辞じゃなく本当に私好みの味でした!」
と、途中から普段の調子に戻って返事した。
それを聞いたママは笑顔で腰に両手を当てて「そっか、それは良かった!」と満足げにウンウン頷いていた。
「流石はソムリエさんですねぇー。初対面の私の好みを、ほんの少しの会話なりから察して、合ったワインを出せるんですから」
と絵里が自然体で心から感心している風で言うと、「ふふ、ありがとう」とママは初めのうちは明るく返していたのだが、その直後、途端に何だか気まずそうな、照れ臭そうな笑みを浮かべたかと思うと、横目でチラッと、寛治や武史達と談笑している義一の方を見つつ、絵里の顔の側まで自分の顔を近づけて、今度は悪戯っぽく笑い、
「何でそこまで分かったのかというマジックのタネは、食後にあなただけに内緒で教えてあげる」
と言い終えると、最後にウィンクをした。
「は、はぁ…」
絵里がまた戸惑いの表情を見せたが、それには構わず、ママは足取り軽やかに、自分の押してきた今は空になったカートを押して部屋を出て行った。
それからは何食わぬ顔で注文された飲み物のお代わりを持ってまた入ってきて、それを各々の前に置いて、配り終えると「ではごゆっくりー」と、これまた毎度の間延び気味の声と共に、無言のマスターと共に部屋を後にした。
「さて、皆に飲み物と食事が渡った所で…」
聡は一同を見渡しながらそう声を出したのも束の間、途中で寛治に視線を移し、
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