数寄屋 B

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ただ情報が何だかあやふやだったので、ついついあの悪いクセが発動しそうになり、口から言葉が漏れそうになったその時、横から義一がまるで私の心を読んだかの様に、寛治の話に付け加えてくれた。 「ふふ、寛治さんは謙遜を含めてあゝ話したけれど、僕から少し詳しく言うとね、ワシントンというアメリカの首都で、その政治の中枢まで入り込んで、向こうの高官レベルの人と対等に議論を交わす様な人なんだ。これは違う人から聞いた話だけれど、この先生、アメリカの悪口ばかりを言うから煙たがられてはいるんだけれど、その反面とても面白がられてるって話なんだ」 「へぇー…じゃあ寛治さんって、政府の人なの?」 と私が当然の帰結としてそう聞くと、寛治は一瞬目を見開いたかと思うと、「ヒヒヒヒ!」という、声を裏返しつつとても特徴的な笑い声を上げた。あまりにあっけらかんと笑うので、思わず一緒に笑ってしまうほどだった。 寛治はその笑みを絶やさぬままに答えた。 「いやいや、僕みたいな好き勝手喋る様な輩は、とてもじゃないけど、今の日本政府の中には入らせて貰えないよ。…偽善で凝り固まった”ポリティカリーコレクトネス”を尊重する様なね」 「”ポリティカリーコレクトネス”っていうのはね?」 と、私が質問する前に義一が横で注釈を入れてくれた。 「まぁ…”政治的正しさ”くらいな意味だよ」 「そうそう!」 とさっきからヤケにハイテンションで寛治が応じていたが、ふと私の中でまた”なんでちゃん”が目を覚まし起き上がった。私個人としては当たり前の疑問が湧いたのだ。 ただ本来ならすぐに質問をするのだが、今回は少しばかり勝手が違っていた。何せ今日は…言うまでもなく絵里が同席していたからだ。 私が小学生の頃に絵里が言った事、『質問をする前に、取り敢えずでも構わないから自分の意見をまず持ってからでなきゃダメ』というアレだ。私はこれまでも何だかずっと胸の中を占めているこの言葉、質問する度に胸に去来しないことが無かったが、それが今回はその元が隣にいるのだ。自然と少し構えるのも無理はないだろう。…まぁもっと単純に言えば、絵里に突っ込まれるのを恐れていただけなのだが。 それはともかく、絵里を横目でチラッと覗くと、絵里も丁度私の方を微笑みつつ見てきていたので、間に合わせに微笑み返した。取り敢えずこの場は引き下がることにした。
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