数寄屋 b

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「では今日は、年齢順ということで、ここは寛治さんに音頭を取って貰いましょう」 「えぇー、僕ー?…仕方ないなぁ」 寛治はいかにも面倒だという感情を惜しげも無く顔中に浮かべていたが、それでもわざわざその場で立ち上がり、飲みかけの野菜ジュースの入ったグラスを高く掲げ、私の方をチラッと見て、ニコッと笑ったかと思うと明るく声を上げた。 「では…今日の主役は琴音ちゃんの様だから、そのー…取り敢えず、琴音ちゃんの前途を祝して…かんぱーい」 「かんぱーい」 カツーン それからはまた一同からお祝いの言葉を貰った。そして、最後に寛治からも「おめでとう!」と短かめのお祝いの言葉を貰った。それに対して私も短く「ありがとうございます」と同じ様に短く笑顔で返すのだった。 それから暫くは、出された料理に皆して小皿に思い思いに取りつつ、雑談しながら食事した。料理の内容は、やはり幾らかの小品に変化はあったが、大体前からと大きな変化は無かった。尤も、私は今回で三度目だが、メンバーもほぼ同じなのだから仕方がない。ただそれは、メンバーが変われば料理も変わるという事なので、大皿に乗った料理にも品が少しばかり増えていた。具体的には三品だ。寛治の側に置かれたお皿の上には、ズッキーニとシイタケをオリーブオイルで炒めて、塩、胡椒、砕いたパルミジャーノチーズを入れてさっと混ぜあわせた物だった。武史の側には、餃子と、パッと見つくねに見えるが、鳥の挽肉にシソと生姜を加えて、それをラップでソーセージ状に丸めて包み、冷蔵庫に暫く置いたそれを熱したフライパンで焼いた、所謂皮なしのソーセージが乗っていた。そして私と絵里の側には、私の好物である鳥の唐揚げに、それと共に下ごしらえを施した鳥の挽き肉を粘り気が出るまで捏ねて作った肉ダネを、ピーマンに詰め込んで、熱したフライパンで焦げ目がつくまで焼き、その後は弱火で蒸し焼きにした、通常のよりも少し凝ったピーマンの肉詰めが乗っかっていた。 私と絵里の好物は被っていて、特に肉においては、何を置いても鳥肉が好きだというのが共通していた。だから前回までの食事にも、何かしらの鳥肉料理が出されていたのだった。絵里については、それをどこで知ったか、ママとは別に、マスターはマスターでしっかりと好物を把握していた。 私の分は、普段は義一が選り分けてくれていたのだが、今回は絵里が何も言わずとも率先してしてくれた。
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