数寄屋 b

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「はい、琴音ちゃん」と絵里が渡してきたので、「うん、ありがとう」とお礼を言いつつ受け取ると、美保子がテーブルの向こうから「絵里ちゃんって、案外女子力高いのねー」と悪戯っぽく声をかけてきたので、すかさず「”案外”は余計ですよ」と絵里は突っ込んでいた。その二人の様子を見て、私と百合子は顔を見合わせて微笑み合うのだった。絵里はすっかり初対面にありがちな”壁”が薄れた様で、傍目からみると普段通りに見えた。 それからは美保子、百合子、絵里、そして私の女四人で、取り止めのない話をした。 「へぇー、絵里ちゃん、日舞の名取なんだ」 美保子が声に感心している様な雰囲気を持たせつつ言った。 「まぁ…それこそ名ばかりですけれどね」 と絵里は照れ臭そうに、私にチラッと横目を向けつつ少し恐縮しつつ答えた。それに対して私は意地悪っぽくニターッと笑い返すのみだった。 絵里が私に向けた視線には、少し恨みがましさが滲ませてあった。まぁそれも然もありなんといったところだろう。何故なら、誰にも聞かれていないのに、私がポロッと絵里の正体をバラしてしまったのだから。絵里は基本的に自分が日舞の家庭だというのを伏せたい体らしかったが、これは私の勝手な我儘だと知りつつも、ことこの数寄屋に集う様な美保子や百合子といった、芸に通じている人に対しては、バカにしているつもりは無いが一介の図書館司書としての絵里よりも、日舞の名取としての絵里を紹介したかったのだ。 それからは美保子と百合子の質問ぜめが始まった。私はそれをニコニコしながら聞いていたが、話の流れの中で、この時に新しい情報が手に入った。実は百合子は二十歳までバレエに真剣に取り組んでおり、わざわざパリの養成スクールまで行こうかというところまでいっていたらしい。これを聞いて、話に夢中になってる百合子の顔を見つつ成る程と思った。身長は今年でとうとう追い抜いてしまったが、それでも女性としては背が高い方の百合子のスタイルは、どのパーツも程よくシュッとしまっており、パッと見細身に見えるのだが、どこかしなやかな筋肉が内在されている様にも見えていたからだ。恐らく十代の頃までに培われたものが、今の百合子を支えているのだろう。ここでは軽くしか触れられないが、以前にマサさん経由で教えられた様に、
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