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「ジュール、貴方は俺に後を追わせることを許さなかった。貴方が『生きろ』と命じたから、俺は生き永らえてきたのです」
「ならば、命令は続行だ。あの海でノワ、最期にお前を救えたことは何よりも私の誇りだった。もし、真の愛を知らずに死んでいたなら、それこそ不幸と嘆いたか、或いは何の煩悶も無く運命と受け入れたことだろう。死にきれなかったわけではないのだよ。ただ、私は強欲でね。愛を知ったばかりに神との契約を結んだのさ」
「転生の契約……」
「そう、条件つきで。これが中々に試練であったよ……」
ルーシェンの口から聞かされたジュールの試練とは、極めて絶望的な可能性の低い賭けに思われた。ルーシェン・ミィシェーレとして生まれ変わったジュールは、この街を出ることを許されず、俺を迎えに行くことも声をかけることも名乗ることも許されず、よって、待つしかなかったのだ。そして、奇蹟を起こせる機会は満月の夜のみ。しかし、事情も顛末も言動の一切を許されず、俺が気付いて名を呼ばない限り、全ては水泡に帰するはずだったという。
そして……、ただ待つことしか許されなかった神との約束事のうち、ジュールが最も懊悩した約束事が、もう一つ有るという。
「ノワ、私の身勝手で、お前にはまた辛い思いをさせることになるが……、私は……ルーシェン・ミィシェーレは30歳までしか生きられない。それでも!……私を、僕を傍に置いては貰えないだろうか……」
ルーシェンの紅い瞳が昏く揺らめく。
ジュールが亡くなった歳と同じ30歳まで……。あまりの衝撃に言葉を失くしたが、何を聞かされても俺の答えは決まっていたように思う。
「悲観はするまい。もう一度、貴方と生きる時を賜ったのだ。この奇蹟は神の祝福に他ならない」
項垂れる繊麗な肩を抱き、溢れんばかりの愛おしさに深く深く接吻けると、青く艶やかな髪を撫でて俺は、そっとルーシェンの躰を押しのけた。
一歩退いて、その御前に右膝をつき、恭しく取った手の甲に忠誠のキスを落とす。
「俺はジュール・シェバリィーを愛しています。喜んでこの身を捧げましょう。一生を懸けて、今度こそルーシェン・ミィシェーレを愛し、守りたい」
一秒が永久にも長く感じられる接吻けに、はにかんだルーシェンの鮮麗なピジョンブラッドが一際、神々しく俺を見下ろした。
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