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 夕食を終えて、お客様である辻浦君が一番に入浴して、今は美波が入っているところだった。  そろそろ上がるかなと言うタイミングで自室から一階に降りる。リビングでは母さんと辻浦君がテレビを横目に二人でお茶を飲みながら談笑している。  リビングのドアをそっと開けて、母さんに声を掛けた。 「お風呂入るよ」 「あら。そうね。譲の後、お母さん入るから流さないでね」 「うん」  僕に注がれるもう一つの視線には応えないように、リビングを後にした。 「……はぁ」  湯船に入り、体育座りの姿勢で膝を抱えて俯くと自然と溜息が漏れ出た。家にいるのにこんなに追い詰められた気持ちになるのは初めてだ。  でも、いくらなんでも隣の部屋に美波がいるのに、何かしてくるとも考えられない気がする。夜静かな空間なら尚更そうだろう。  辻浦君が何か言って僕を煽っても、適当に受け流せば良い。いざとなったら大声で叫ぶ。 「……よし」  ザバっと音を立ててお湯が大きく揺れる。  湯舟から出て軽く水を払い、浴室を出てすぐの洗面所で、タオルを入れてある引き出しからバスタオルを取り出して頭からかぶった。  髪の水分をザッと拭き取り、バスタオルを肩から掛ける。  洗面所の鏡に映る自分の裸体が目に入る。  細身で、筋肉がほとんどない男らしさのない身体つき。 「妹に似てる」と言われる顔は、結局は男らしさに欠けていると言うことなんだろう。 「……いっそ、坊主とかにしちゃおうかな」  まだ濡れた髪を弄りながら、ぽつりと呟く。  身体を拭いて、寝巻に着替え、髪を乾かしてから真っ直ぐ自室に戻った。 ***  夜九時と言う早い時間に僕はもう寝の姿勢に入っていた。  ベッドに入り、電気は点けた状態で布団に包まる。 寝付きがあまりよくない僕は、眠りに落ちるまで一、二時間掛かってしまう。  一階で三人が楽しそうに会話している声が響く。時折母さんと美波が大声で笑っているようだ。  このまま朝まで過ぎてしまえば良いのに。  僕はただ、とにかく眠らなきゃと言う思いで、何も考えずに、気楽に、気楽にと自分を落ち着けるように息をついた。     
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