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「……な、何かしたら、僕」
カタカタと震えを隠しきれていないのに強がっている譲さんが本当に可愛い。横を向いて、俺のことを見ないように強がっているのも。
「叫びます? っはは。ねぇ譲さん? 久しぶりですよねぇ。二ヶ月間、顔が見れなくて寂しかったなぁ。耐え切れなくて譲さんの会社に行っちゃおうかと思ったくらい。
さっき見せた譲さんの携帯ね、暗証番号解けたんですよ、ほら」
ポケットに忍ばせていた携帯電話の画面を譲さんに向けて翳す。え、と驚いた様子で声を漏らして、譲さんが顔を俺のいる方に向けた。
今すぐにキスが出来そうな距離。ひゅっと、譲さんが息を吸ったのが聞こえた。
思い出す。あの扉が開いた瞬間の歓喜を。思わず、開かれた携帯の画面に向かってキスをした。
あの時は眠れなかった。――いや、眠くもならなかった。
強固な扉が開いた瞬間に、貴方のことをもっともっと欲しくなっていた。好きになっていた。
それと同時に、酷く嫉妬した。この携帯電話の電話帳に刻まれた一つ一つ、一人一人に。それは美波やその母親にでさえも。
特に殺してやりたいと思ったのは「金森」とか言う譲さんの会社の人間だ。譲さんは、他人とあまり連絡をとるタイプではないのだろう。ほとんどが家族とのやりとりや通話記録だったが、群を抜いて多いのはその金森とのやりとりだった。
金森自身はどうやら美波に気があるようだったが、それでも譲さんにとっての一番は何でも俺でありたい。
俺は、譲さんの勤めている会社をこの携帯から知って、その会社に足を運んで、そして決意したんだ。
「……僕、何か辻浦君に嫌われるようなこと……した?」
「はい?」
「何で、美波にも母さんにも良い人なのに……僕にそんなに酷いことをするの? そんなに辻浦君と話したこともないのに、何で?
何で僕にこんな、嫌がらせ……」
一瞬、目の前にいる大事な譲さんを放ってしまっていたせいか、譲さんがおかしなことを言い出した。涙目になって、眉をしかめて俺を見上げている。
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