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頭の中が沸騰したように熱くなり、それが落ち着くとさっきまでの熱が嘘のように、逆にスーッと冷めていった。
電話口で譲さんが、『切りますよ』と告げてくる。
「……俺から離れるのは、許さないから」
淡々と言って、通話を遮断した。
携帯をソファーに投げて、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、一気に呷った。
キッチンの引き出しから果物ナイフを取り出して履いているジーンズのポケットに収めた。フェイスタオルを何枚か掴んで、部屋着にしているパーカーを持っていく。紐状の物があれば良かったが、手頃なものが見つからなかったのでガムテープを手に取った。
時刻を確認する。朝方の四時半になっていた。流石にまだ起きていないだろうが、今日譲さんは仕事があるはずだ。一度家に帰ろうとするだろう。
ふと思いついて、バスルームに向かった。バスタブの底の栓をして、シャワーから水を出した。
「綺麗にしないと」
冷水にしているからだろう、シャワーの勢いは強く、ぼーっと眺めているとあっという間に水嵩を増していった。
「汚れてしまったら、ちゃんと綺麗にしてあげないと」
呟きながら水面を眺めていると、バスタブから溢れて足元を濡らした。
「迎えに行かないと」
車の鍵と必要な物を持ち、部屋を後にする。冷静な自分とそうではない自分が錯綜している。ただ、あの人を捕らえない限り、この感情は抑えられそうになかった。
部屋の外に出ると、空は僅かに明るんでいた。
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