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「気分、大分良さそうですね」 「うん、ありがとう。そろそろ戻らないとね」 「ですね」  辻浦君が再び僕を背負おうと、僕より早くベンチから立ち上がり手を差し出してきた。僕は笑みを交えてそれをやんわりと断った。 「じゃあ、肩だけ。足元まだ覚束ない感じなので」 「……本当だ、立ち上がると、まだ、……」  治まっていたと思い込んでいた酩酊が再び振り返したようだった。足取りは危うく、一メートルも歩いていないのに足が意に反してゆらゆらと揺れてしまう。 「それじゃ帰れませんよ。……よっ、と」 「え。……っわ! うわっ?!!」  夜の公園。  確かに人影なんて疎らだけど、僕達のように酒を飲んだ様子で上機嫌に闊歩するサラリーマンらしき姿もちらほらと見られる。  辻浦君はあろうことか僕を、お姫様抱っこ、とか言う抱え方をして居酒屋に戻るつもりらしい。  その姿に気付いた見知らぬサラリーマン達が口笛を鳴らしながら「お持ち帰り成功かー! いいねえ!」なんて信じられない言葉を投げ掛けて来る。 「譲さん、軽い」 「っお、降ろしてっ! み、皆見てるし、恥ずかしいから! 本当に降ろしてって!」 「じゃあ、もう少しだけ」 「もう少しって……!」 「俺も酔いが回ってるみたいです。何だか……こんな風にちょっとふざけてみたい気分なんです」  そう言いながら公園をゆったりとした足取りで歩き始めた辻浦君は、何かの歌なのか……鼻歌みたいに口ずさみながら、機嫌良さそうに笑っている。 「公園出たら降ろしますから」 「……絶対だからね」 「あはは、そんな睨まなくても。分かってますよ」  特に会話をすることもなく、辻浦君は僕を抱き抱えて公園をゆっくりゆっくり歩く。  鼻歌はなぜか懐かしく感じられて、もしかして僕も聴いたことがある曲なのかとふと思った。 ――そう、どこかで聴いた……。  気付きかけたような、引っ掛かるようなその感覚に、奇妙に胸がざわつく。
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