638人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「さ、着きましたよ」
「あ、ああ。うん」
ストンと地面に降ろされて、今度は肩に腕を回して僕を支えてくれている。情けないけれど、確かにこうして貰えると楽だ。
「ありがとう」
「いいえ」
刹那。
「うわっ……!」
突如巻き起こった、たたき付けるような大きな風が公園の木々を乱暴に揺らし始めた。轟々と音を立てて吹きすさぶ風。安定性のない足が風にさらわれて揺れてしまう。
「風、凄っ、……痛っ」
飛ばされた砂粒だろうか、目に入り込んだ刺激で反射的に瞼を降ろし固く閉じた。
視界が塞がれて、よろけて辻浦君に凭れ掛かってしまったようで、背中一面に人の体温を感じた。
ふと、耳元に生温い空気が触れた。
「……もう、絶対に放さない」
微かに……何か言われたような、声を拾った気がした。
突然に吹きすさんだ風は、いまだ音を立て暴れている。
「……何か……言った?」
「いいえ、何も」
辻浦君はニコリと笑って、涙で視界が滲む僕の手を引いた。
終
最初のコメントを投稿しよう!