Reset ①

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「譲さん」  俺の声に反応して、俯けていた顔を上げたその人。  穢れなんて一つも知らないように透明な瞳が、まっすぐに俺を見上げる。 「あ……辻、浦君?」    名前を呼んでくれた、覚えてくれていた。    いや、当たり前だ。俺は頻繁にこの人の暮らす家に通っているのだから、家族間の話題で俺の話が出ていたって何も不思議な事はない。  そんなこと解っているのに、たったそれだけの事でこんなにも幸せを感じている自分の何てちっぽけな事だろう。    その後、譲さんを誘って店を出ようと試みたものの断られてしまった。  自分でもしつこく食い下がっていると言うのが分かっていて、痛いヤツと思われてしまったらどうしようと考えながらそれでも、この人と話して居たかった。  結局、美波にケーキを買ってくると言ってしまった手前これ以上長居する事もできず、留まりたい気持ちを必死に抑えて俺は店を後にした。    譲さんは一人だった。その事に安堵した。  もし譲さんが誰かと一緒だったなら、俺はどうなっていただろうか?  その答えは永遠に知らないままでいたい。   神様、俺はあなたの存在を信じた事なんて一度だって無いと思うよ。  人間のために存在する絶対的な存在なんてありえないと今でも思っている。   罰当たりと言われても仕方の無い俺が、こんなにあなたの存在に縋ろうとしている。  みっともなく。格好悪く。  それでも神様。どうか、どうか。     あの人を、俺にください。
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