Reset ②

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***  ファミレスで譲さんと会えた日から丁度一週間後の事だった。  夕方過ぎに美波の家に行けば、譲さんは不在だった。今日は土曜日で、譲さんも休日だと美波は言っていた。もしかしたら、今日も譲さんはあのファミレスに居るのかもしれない。夕食には早過ぎる時間帯だけど、そう思った。    さすがに気付いているけど、多分、……譲さんに避けられている。勿論、直接美波に言われた事ではないけど、「お兄は人見知りだから」という言葉の裏にはそういった意味があるんだろう。    こうして頻繁にこの家に来たところで、あの人との距離を埋められないと言う事だ。  もし譲さんに恋人が出来てしまったら、いや、もし――もう、いるのだと、したら?    そう思い至って血の気が引いていくのが分かった。何を悠長な事をしていたんだろうとこれまでの自分を殴りつけてやりたくなるほどに焦りを感じた。  あんなに魅力的な人だ。俺以外の人間が惹かれて近付こうとしている可能性だってあるだろう。会社にそんな存在が居るのだとしたら?  俺の見えない範囲で、誰かが譲さんを手に入れようとしていたら……?    「……ごめん、美波。ちょっと具合が悪いんだ。今日は帰るよ。来たばっかりで申し訳ないけど」  美波の部屋で、美波が借りてきた洋画のDVDを見ようとしていたその時に、俺は掠れた声で体調不良を演じながら、訴えた。  美波は驚いた顔で俺を振り返り、そして目を見開いた。 「孝文、顔色悪い、真っ青だよ! ね、熱は? 我慢してたの? いつから……。ごめんね、あたし体調悪いの全然気がつかなくて、気が利かなくて……」 「大丈夫、熱は無いと思う。風邪の引きはじめなのかな、寒気がして。返って気を遣わせて悪かったね」 「あたしが会いたいって言ったから……あたしの方こそほんとにごめんね。途中まで送るっ」 「ううん、いいよ。車だし、一人で帰れるから気にしないで。折角の休みの日に予定空けててくれたのに、ごめん」 「そんな事気にしないで……。また、月曜日に学校で会える? メールするから」 「ありがとう。メール待ってる」  美波の腕が俺の首の後ろに回される。俺も顔を傾けて、その無言の要求に応えた。
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