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「そうなんだ、ありがとう。――あ。そうだ。あのね、美波の好きなケーキの店がこの先の、」
――美波。美波、なんで、美波?
今俺は、貴方と話がしたいって言ったんだ。
美波のことなんてどうでもいい。
なんでそんなに、どうでも良さそうにしているんだ……
譲さんの言葉を聞いた瞬間、色んな思いが頭の中を駆け巡って、怒りでカッと頭に血が上ったのを感じた。
「美波のことはいいんですよ!!」
気がつけば、ざわついた店内が、静まり返っていた。
目の前の譲さんも固まっている。
ハッとした様子で譲さんが俺に謝ってきたけど、それだってどうして謝っているのか解らないんじゃないのか?
とりあえず謝って、この場を鎮めて、事なきを得ようとしているんじゃないのか?
俺との時間を、もうこれ以上延ばさないように――
そんなことは、許さない。
「譲さん、外、出ませんか?」
「え? いや僕は」
「行きましょう」
強引過ぎるやり方だって、冷静になっている俺の一部が言っている。けど、そんな一部の理性なんかじゃこの気持ちは抑え切れなかった。
強い力で腕を引っ張られて混乱している譲さんは、俺の為すがままにされている。
「えっ、ま、待って辻浦君! これから頼んだメニューが」
「夕飯なら俺が奢りますよ。俺が誘ったんだし」
レジに向かい、ウェイトレスに「あのテーブルの会計、まだ来てない分もお願い」と言うと、困った様子で裏のキッチンへと視線を巡らせていた。
「早く、急いでるんだ」
「あ、す、すみません。せ、1570円です……」
「じゃあ二千円で。お釣りはいらないから」
「え……っ」
うろたえているのはウェイトレスだけじゃなく譲さんもだった。その腕をさっきより幾分力を抑えて引いて、俺たちは店外に出た。
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