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『――ああ、そう言えば譲さんを抱くときの練習に、まあまあ見れた男を抱いたことならありますけど』
貴方に嘘をついた。いざと言う時に、頼りなく思われたくなかったから。
でもその嘘をこれから真実にする。それは貴方にとっても必要なことだから。
***
「君、相手探しているの?」
「お兄さんカッコいいね。ね、今晩どう?」
「ネコはいける?」
こういった場所が存在すると言うことは知っていた。だけど、まさかここまで声が掛かるとは思わなかった。自分の見た目が男好きの男にどう映るのかなんて分からないし、流石に、そう思うようには行かないと思っていたんだが。
俺はあの人のために、あの人といつか迎える日のためにこんな場所に足を運んでいる。
今時、SNSでも専用のサイトでも駆使すればもっと手っ取り早く済むとも思ったが、やはり生理的に行けるか行けないか判断できるのは直接対面に限る。
本当は、譲さんの事を考えれば、練習台だって経験のない男の方が良いだろう。譲さんには初めてのその時になるべく苦痛を味わわせたくない。気持ち良くなって俺をちゃんと感じてもらいたいから。
でも万が一その男が自分に本気になってしまったら面倒なことになるに決まっているから、それなら妥協して、慣れた男にした方が良い。ただ寝る相手を探していると言った軽い奴を探している(どうせ殆どそうなんだろうと勝手に思っているのもあるが)。
自分にとっても初めての経験。それを譲さんと共にしたいと本心では願う自分を押し殺す。
どれでも良いなんて自棄になりたくない。せめて、譲さんにどこか一つでも雰囲気の似た男じゃないと自分のものが反応する自信がなかった。掛かる声掛かる声に愛想良く断りを入れていく。
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