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「ねぇ、まだ相手探してんの?」
もう何人目か分からなくなった頃。
いい加減拘りを捨てて妥協しなければと思い直していた時だった。
(……ああ、こいつなら)
細身の身体が目を引いた。決して痩せぎすではなく、どこか儚げな雰囲気の――。
髪色はかなり明るい栗色で、瞳は……カラーコンタクトだろう、灰色をしている。両耳にはジャラジャラとピアスを着けている。一言で言えば、派手だ。
顔の造作は上品だが、故意にそれを崩しているようにも感じ取れる装飾品や髪色などを見る限り、中性的な顔立ちをコンプレックスに感じているのだろうか。
(プライドが高くなければ良いけど)
「初めてなんだ、こういうとこ。君は何度も来ているの?」
「まあね。暇な時はよく来てるかな。でさ、アンタ俺と話してくれてるってことは、良いんだろ? どう?」
「……君は俺なんかで良いのかな?」
「気持ち良ければ最高。相手がイケメンならもっと最高」
「解りやすくて良いね、それ」
「だろ? じゃ、行こうぜ」
腕を絡める動作も慣れたものだった。
「アンタ、名前は?」
「リョウジって言うんだ。君は?」
本名を名乗る必要もないだろう。相手も、一応聞いたと言った感じで適当に言った名前に反応することもなかった。
「柚希(ゆずき)。女みたいな名前だろ? まあ気に入ってるから良いんだけど」
……ゆずき、か。
比べるまでもなく、俺にとっては「ゆずる」の方が良い名前だけど、偶々選んだ相手の名前が愛しいあの人の名前と似ていると言うのは何となく嬉しかった。何だか、やっぱりあの人と俺は繋がっているんだと思えて。
「……いい名前だと思うよ」
隣にいる柚希に素直にそう告げると、柚希はキョトンとした瞳で俺を見つめた。
「アンタ、モテるだろ。俺みたいなのは良いけどさ、相手選んでしろよ。そういう顔は」
「はは、忠告ありがとう」
とりあえず相手選びを間違えていなかったことに安堵した。
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