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「ユズルって誰? もしかしてリョージの想い人?」
シャツを腕に通しながら、いまだ裸のままベットに寝転がっている柚希を見た。
「……ん? 何の事?」
「さっき、リョージが言ったんだ。ユズルって。一回も俺の名前、ヤってる時に呼んだことなかったし。まさかさぁ、名前間違えたとか言わないだろ?」
名前を――?
覚えは無かった。けど、柚希はくだらない嘘をつく奴でもない。何度か身体を重ねていれば何となく分かる事もある。きっと、言ったんだろう。……無意識に、譲さんを求めていたんだろう。
柚希としているのは、ただ溜まった物を吐き出すと言うこと、そして譲さんを気持ちよくさせてあげるためにどこをどうすれば感じるのか試しているだけのこと。そこに愛情なんて微塵もない。コイツの名前なんか呼ぶ必要もない。
柚希の方は、「相手の名前を喘ぎながら言うと気分が上がる」と言って俺の偽名を連呼してくるが。
「俺の名前初めて聞いた時、リョージさあ、良い名前だって反応したじゃん。あれって、ユズルに似ているからだろ? くくっ」
柚希は勘が良い。軟派な見た目を裏切り頭もそこそこ回るらしい。記憶力も良いようだが、基本的には気持ちいいセックスさえ出来れば良い人間だ。人間そのものにはさほど興味がないらしく、俺のプライベートに付け入るようなことはなかった。
……まあ、今している話だって言うほど興味はなさそうだ。証拠に、それ以上聞くつもりもないのかニタニタとからかうような目付きで笑うだけ。
裸のままの柚希が俺の背中にぴたりとその身を合わせた。
ついさっき履いたばかりのジーンズのチャックを下げて、躊躇う様子もなくするりと右手を差し入れてくる。
「今日はこの後バイトなんだ。もう出来ない」
「はあ?! せっかくの土曜日にバイトって。何かリョージにバイトとか似合わねー。何のバイトしてんの? バーテンとか似合いそう」
快楽を炙り出すような右手の緩慢な動きを止めないまま、俺の首に舌を滑らせている。行為を中断させるために、俺は柚希の右手を掴んだ。
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