Reset ③

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 柚希と初めて寝てからもう二ヶ月が経つ。――譲さんとは、あの日から一度も会えないままだ。  会おうと思えば、方法さえ問わなければ会えるだろう。譲さんの住む家に行くことは何ら難しい事ではないし、勤務先だって掴んでいる。  けれど、勤務先に強引に押しかけるのは長い目で見れば絶対に使いたくない手段だ。だからと言って家に押しかけても、結局は美波や美波の母親の相手をさせられるだけに終わる可能性の方が高い。  そこでまた譲さんが家にいないようになって、譲さんに避けられているかもしれないと思わされるのは――つらい。会いたい、けど、拒絶されたくない。   あの時、性的な行為に明らかに疎い様子だった譲さんを怖がらせてしまったのは確かだろうから。  そう、怖がらせてしまった罪悪感は、確かにある。だからこそ今度は余裕を持って、優しく最後まで抱いてあげたい。俺がどれだけ譲さんを好きなのか感じて貰えるように。  いや、それ以上にもっとあの人を知りたい。俺の事も知ってもらって、手を繋いで、二人で出掛けて……助手席に乗せて、あの人が好きそうな場所に行って。あの人が求めることをしてあげたい。全部全部、叶えてあげたい。   俺が譲さんにとって、様々な事の初めてになれるかもしれないと言う高揚感は、罪悪感をあっさりと凌駕してしまいそうだ。今無理に会おうとしたら俺は、とても余裕を持つなんてことが出来ない気がする。現に一度してしまったのだから。  あの日からずっと、譲さんに触れた箇所がじりじりと疼く。喉が渇いて渇いてたまらない。  美波とは大学でも極力会いたくなかった。バイトで多忙だと理由をつけて、会わないようにしていた。  譲さんと美波は兄妹だからだろうが、顔立ちは多分、やはりどことなく似ている。  今の状態で美波に会えば、抱いてしまえば、譲さんを求める気持ちがいよいよ爆発してしまいそうだ。  それに、毎日毎日、美波は譲さんに会えている。一緒に暮らしていると言う現実に嫉妬して押し潰されそうだ。だから、会いたくなかった。  あまりに子供っぽいし、自己中心的だと思う。こんなにも自分が感情的になるのだと言うことを、俺は譲さんに出会って初めて知った。こんなに胸が痛むことも、焦燥に駆られることも今まで一度だってなかった。つらいのに、苦しいのに譲さんに出会った事を否定する気持ちなんて微塵もない。
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