1/9
636人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ

 僕――高瀬譲(たかせゆずる)は、人見知りが激しい性格で、友人はあまりいない。社会に出て揉まれてからは大分良くなった気もするけど、それでもある程度見知った人以外には吃ることも多い。  たまの仕事の休みにも、外出することは殆ど無くて、一日中家でごろごろしながら本を読んだり、録り溜めたDVDを観たりして過ごしている。  二十三にもなって彼女も作らないで、本当に寂しい、どうしようもない人間だって自分でも日々感じている。  けれど親のすねだけをかじっているわけでも、働いていない訳でもないし、人間の一生は恋愛だけが唯一至上のもの、と言うわけでもないと思う。  僕は何となく昔から、結婚して誰かを養ったり育てたり、そんな普通の幸せと位置付けられている時間に出会えないと決め込んでいたから、自分一人でも、贅沢をしなくても生きていけるだけの力を身につけようと、勉強だけは頑張った。  堅実に、確実に。  欲を出さずに。  必死に勉強をして数式に溺れる中、人間の人生はなんて無駄に長いのだろうかと感じる事もあった。 ***  就職して半年が過ぎた頃、二つ年下の妹の美波が家に彼氏を連れて来た。  辻浦孝文(つじうらたかふみ)。それが美波の彼の名前だ。 その人は、なるほど美波の彼氏だけに、明るそうで社交的で、そして驚くほどかっこいい人だった。  美波は実際、僕とは正反対の性格で、明朗快活、感情表現も豊かだ。顔も身内贔屓無しに整っていると思う。  そんな美波が初めて彼氏を自宅に呼んだのは、小学六年生の頃だった。  その頃から数回相手も変わり、今に至る訳だけど、辻浦君はこれまでの相手には悪いけれど、比べものにならないほどだと思った。  当然の如く母も辻浦君を気に入り、大学生の美波と彼は、暇を見つけては頻繁に家に来るようになった。  夕食をリビングで一緒に取ることもあったけど、僕は何となく惨めな気持ちになるし、そもそもあまりよく知らない人と話すことが苦手だから、辻浦君が来る日は、外食をするようになっていた。     
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!