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「最近、辻浦君来ないわねぇ」
「……うん、なんかバイト忙しいみたい」
母さんと美波の話題には一日一回以上辻浦君が出てくる。
あれから二ヶ月が経った。
あの日以来、辻浦君は家にサッパリ来なくなった。
あんな、よく解らない、僕からすればあまりにも突拍子もない気味の悪いことを言われて。刺されるんじゃないかと思いながら毎日怯えて歩いたり、人混みが大嫌いな僕が、あえて人のいる場所を選んで行動していたのに。
未だに以前の携帯と荷物の行方は解らないけど、勿論聞かないつもりだ。辻浦君と関わりを持ちたくない。
悪用されないかとハラハラしたけれど、僕は携帯電話には必要最低限のアプリしか入れていないし、写真も殆どないし、そもそも携帯はロックが掛かっているしと自分に言い聞かせていた。
それに今のところ、これと言った被害はない。僕が一人で恐怖に駆られているだけだ。
拍子抜けしたと言えばそうだけど、何もないに越したことないに決まっている。
バイトを始めたそうだけど、だから何だという話だ。それで家に来る機会が減るのなら、大いに結構だと思う。
辻浦君が来なくなってからは、外で時間を潰すことも無くなり自室で快適に過ごしている。
美波の幸せが壊れたらいいなんて思ったことは一度だってないけど、辻浦君に関しては、別れてしまえば良いのにとさえ思う。とりあえず現時点では美波に対して何も行動を起こしていないのは驚いたのと同時に、ホッとしている。
「あーあ、せっかくの土曜日だってのに、つまぁんない。
ねぇねぇ、おにぃ。ケーキが食べたいよー!」
「えぇー……」
出た。美波のおねだり攻撃。
つまらないなら気分転換に自分で買いに行けば良いのに……とは言えないけど。
「ねっ、お願い」
「お母さんはチーズケーキね」
「あたしはミルフィーユ!」
「……はいはい」
この二人が組んだら僕はまるで歯が立たない。
重い腰を上げて、美波が贔屓にしているケーキ屋へと足を運んだ。
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