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すると
「お前、何で笑ってんの?」
と、彼が聞いてきた。
私が今読んでいる本は悲しい恋の話のはず。
「笑ってないわ」
私はそう返す。
「いや、笑ってたよ。雨が上がったからか?」
彼が問いただしてくる。
雨が上がって少し、ほんの少しだけ恋しかった野球部の活気のある声を聞いて知らないうちに口角が上がっていたのかもしれない。
「あなた、暇なのね。私の顔しか見てないんじゃないの?」
またしても彼を皮肉る。どうして私はこう相手を煽るような口調になるのか……
「ンなことねぇよ!たまたま顔を上げたらお前が笑ってたから聞いたんじゃねぇか!」
彼は顔を少し赤くし、慌てた様子で反論す
る。
「それにしても、最近よく来るわね。やっぱり野球部辞めてから暇なの?」
私は疑問に思ったことを聞いてみる。
「まぁな。野球辞めてから暇だよ。ずーっと野球しかして来なかったからな……何していいかわかんねぇんだ」
少し寂しそうにマメの痕の薄ら残る手を見つめる彼。
「そう。……だったらここで勉強したらいいじゃない。どうせ野球しかしてこなかったんだから勉強は疎かになってたんでしょうしね」
彼は顔を上げると
「ありがとう」
そう言って案外整った顔で笑ってみせた。
私は西日で顔が熱くなるのを感じた。
グラウンドにはいつも通り野球部の大きな声。
雨上がりの空には綺麗な虹が掛かっていた
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