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梅雨の影響を思い切り受けている本日。
不快指数150パーセント。大雨だ。
こんな最悪な日だけど、たった一つだけ、最高なことがある。
「今日も参っちゃうねー」
「ホント、早く梅雨明けしてほしいですね」
梅雨明けしてほしいのは半分本当で半分嘘。
僕が働いている本屋は小規模だけど、一般的な本屋に置いていないようなコアな本を店長が好んで仕入れていることで、本好きな人の間ではひそかな人気を博している。
そして雨が降っている日の夕方五時を少し過ぎた頃になると、この人が店に来る。
「何かオススメの本ある? 前に紹介してもらった写真集、すごく良かったから」
「あれ良いですよね。僕も何も考えたくないときに、あれ見てると頭がすうっとして。紹介させて頂いて良かった。
例えば、神崎さんが今どんな気持ちで本を読みたいとか、漠然とでも良いんでありますか?」
「そうだなあ……小難しいのは苦手だから、あんまり考えないでよくて、癒されるような本とかある?」
「あはは。待ってて下さい」
神崎さんは自宅がここから歩いて二十分程の場所にあるそうだ。
本なんて全く興味なくて、小説なんて開いてもミミズかお経にしか見えないと思っていたという彼が、何故こんな本屋に来たかと言えば、最初のきっかけは何て事のない、雨宿りをするために入店したのだそうだ。
その時僕が彼に何か探しているのかと声を掛けたのが始まりで、彼のはにかむような笑顔に一目で恋に落ちた瞬間でもあった。
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