標高三千四百米より

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「何、買ったんだ」 「魚肉ソーセージ」 「なんでそんなのがここで売ってんだよ」 「エネルギー効率がいいからだよ」 「そうなのか」  俺はベンチに膝立ちになり、柵の向こう側を見る。あたりはもう夜に染まり、足場はライトなしでは全く見えなかった。風が頬を撫でる。眼下に広がる闇が、俺を飲み込むように広がっていた。 「……怖いな」 「夜なら、な」  保田はゴミを山小屋の人に渡し、荷物を背負い直した。 「行くか」 「おう」 **********  山小屋に着いたのは九時前であった。下から見上げれば近く見えたのに、いざ登ってみるととても長い。途中から小雨が降り始め、合羽を着ての登山となった。  山小屋の扉を開けると、中の人は手早くタオルを渡してくれる。ここは食堂だろうか、キッチンのようなものが奥の方に見え、長テーブルとベンチが二列、置かれている。 「とりあえず、荷物置きに行こう」 「そうだな」  長テーブルが置かれている先のドアを開けると、廊下が続き、左手に雑魚寝するスペースがあった。一メートル程度の高さの就寝スペースが、上と下に二段に作られていた。狭いもののかなりの人数が入れるようであるが、今はあまり人はいなかった。  荷物を置いて、財布だけを持って食堂に戻る。既にペットボトルの水と、カレーが二つずつ、テーブルの上に置かれていた。俺と保田の分らしい。思わず腹が鳴ってしまう。すぐに座り、フォークをとって掻っ込む。  程よい辛さと、温かさ。味も濃いめなあたり、塩分も多いのだろう。ただただ、美味い。 「苦労してここまで登って食べるカレーが、不味いわけねぇよな」  保田は言いながら、少しずつ口に運ぶ。美味い、とだけ俺は返す。だろ、と保田は言う。
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