標高三千四百米より

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 全て食べ終え、水を飲む。やっと落ち着いた、と思いながらふとテーブルに置かれたメニュー表を見る。どうやら山小屋で――インスタントだが――温かいものが食べられるらしい。ただ、カップ麺でもスープでも、コーヒーでさえ五百円である。 「……予想はしていたが、こうして見ると高いな」少し苦笑してしまう。 「トイレは二百円だぞ」 「マジかよ」 「水も大切な資源だ」  保田がインスタントコーヒーを注文する。山小屋の職員は少し微笑んで、お湯を沸かす。コーヒーの香りが鼻をくすぐる。 「何も食べないなら寝ておいた方がいい。御来光を見るなら、一時とかに出るからな」 「じゃあ、先に寝てる」 「俺も、これ飲んだら寝るよ」  俺は先に就寝スペースに移動し、先ほど置いておいた荷物を少し漁る。明日着る服を上の方に出しておいて、今日濡れた服をリュックの上に置いておく。少しでも乾くといいが、と思いながら、布団をまくる。薄いが、毛布が二枚と、寝袋が一つ。これが山小屋での設備らしい。寒いだろうな、と思い、フリースを着込んで、首の周りにタオルを巻いて寝袋に入る。枕が固かったが、疲労のお陰かすぐに寝付けた。 **********  目を覚ました時、まず首の筋が痛い、と思った。次に時間を知りたい、とリュックをまさぐり、携帯を取り出した。午前一時、真夜中である。いい時間だ、と起き上がるが、高さがあまりないということを忘れていたため、額を天井にぶつける。  呻きながら外に這い出し、少し伸びる。首が痛い――やはり、寝違えたらしい。大きく欠伸をしてから、周りを見回す。 「……あれ」  保田がいない。先に行ってしまったのかと一瞬疑うが、リュックがあるためそれはない、とすぐに否定する。とりあえずトイレに行きたいと思い、財布を持って食堂を通り、一旦外に出る。  彼は、そこにいた。  柵にもたれかかり、まだ明けない空を仰ぎながら、白い息を吐いていた。 「……おい」 「ん? ……ああ、おはよう」 「何、見てるんだ」 「何って、星だよ」  保田が指さし、俺も目線を上げる。  そこには、テレビやネットで見るような星空が広がっていた。思わず、おぉと声を漏らしてしまう。 「――雲を、抜けたみたいだ」
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