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その日は、ひどい嵐に見舞われた一日だった。
数日前に発生した大型台風、勢力を維持したまま上陸、豪雨と強風による被害を各地にもたらしながら、深い山間部に位置するN県S町へと迫っていた。
この辺りは滅多に台風はやってこず、穏便な気候に囲まれた地域である。
したがって防災意識やら備えは高いとはいえず、凶暴な力を蓄えて向かってくる台風に、人々は恐れおののきながら家の中で縮こまっていた。
まだかすめている程度であるにもかかわらず、早くも各地で被害を出し始め、各所で土砂崩れが発生している情報が相次いで警察と消防署にもたらされ、対応に追われていた。
特に多いのは「淵無(ふちなし)」と呼ばれる、町の中でも最も奥まった地域に位置する小さな集落。
かなり規模の大きな土砂崩れが発生したらしく、集落に通ずる道路が寸断され、行き来が出来なくなっている模様との情報。
すぐにでも復旧に向けた行動をとりたいところではあるが、接近する台風に備えた防災対策に手一杯となり、歯ぎしりしながら過ぎゆく時間に追われるばかりだった……
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