32人が本棚に入れています
本棚に追加
「こりゃあひどいな」
土砂に埋まった道路を見つめながら、そんな呟きが村瀬の口からこぼれ出た。
村瀬は淵無の集落で役員を務めており、土砂崩れの一報を受け、被害の状況を確かめるために現場へと赴いてきた。
役員とはいえ、その実態は使い走りみたいな役回りに過ぎない。
この日も土砂崩れが起きた近場に住んでいるという理由で駆り出された身、当の本人はブツブツ文句を垂れながらの現場検証。
荒れる天候の中を飛び出し、マイカーを運転。
途中、雨に濡れた路面を何度もスリップしつつ、強風にぐらつく車体にビクビクしながらハンドルを握る村瀬の顔は冷汗まみれ。
「何で俺がこんな事……」
運転中、悪態ばかりが口をつく。
村瀬は元来内気な性格をした男、こうした面倒事を避けたがる傾向が強い人間だ。
ましてや危険が伴う状況下での運転、文句の一つや二つは言ってやらなくてはやってられない。
本音は役員などさっさと辞め、他の人間に押しつけてしまいたい。
……とはいえ、それを言い出すだけの度胸もなく、役員になって以降の村瀬は、くすぶり続ける毎日を送っていた。
「……まいったな、一日かそこらでどうにかなるものではないぞ」
最初のコメントを投稿しよう!