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現場のひどい状況を目の当たりにし、村瀬の口から弱音がこぼれる。
大量の土砂が流れ込み、完全に道路を塞がれた格好となってしまった。
町と集落を結ぶ交通網はここしかなく、それは現段階で淵無が陸の孤島と化した事を意味する。
「これでは車が使えんじゃないか。
家にどれだけの備蓄があったかな、くそ……」
真っ先に村瀬が考えたのが、自らの今後の在り方についてだった。
自分を犠牲にしてまで他人を優先するなど村瀬からしたら狂気の沙汰、わが身を最優先するのは人として当然だろう、と。
強風がさらに強くなってきたのか、横殴りの雨が村瀬の全身に降りかかる。
雨ガッパを着込んではいるものの、この程度の装備では雀の涙ほどの効果もなく、全身くまなく濡れてしまっている。
「……じっと突っ立っていてもどうにもならん、この状況を報告しなくては……」
車に戻り、素早く乗り込んで雨ガッパを脱ぎ捨て、助手席に放り投げてあったケータイを取り上げる。
プルルルルル……
プルルルルル……
プルルルルル……
「村瀬か」
こちらが名乗るよりも前に名前をあげる、威圧感あふれる野太い声。
この声が村瀬は苦手だった。
まあ、苦手なのは声だけではないのであるが……
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