1

15/20
前へ
/276ページ
次へ
「それについちゃ、あらかじめ調査してやってきてるんだ。 手紙の中にいくつか手がかりも書かれてるから、そんなに難しくもなかったしな。 優秀な編集者がいると、仕事もスムーズだわな」 あれ、誰の話をしてるんだろ。 「それで何がわかりました?」 暗記してきたのか、羽下守はやや宙を見上げながら記憶を辿っているようで、酒で喉を潤しつつ話し始める。 「手紙に出てくる淵無って地名の集落だが、これは間違いなく現存するものだ。 N県のS市ってーと、ちと馴染みのない地域だが、大層な山々に囲まれた小さな集落らしいな。 で、1年前に台風の襲来を受けて災害に見舞われたっての、それも事実だな。 当時の地元新聞も大きく取り上げて、被害の状況やらを伝えている。 これに関しては間違いなく間違いない自身がある」 「新聞の報道を鵜呑みにしたくらいで威張らないで下さい。 肝心なのはそれ以降に書かれた内容じゃないですか。 そちらの方の収穫は何かないんですか?」 「ない」 何かしらの答えを期待していた私、素っ気なさ過ぎる羽下守の返答に、口を半開き。 「だってさ、しょうがないじゃないか? いくら調べても、一家行方不明事件にしろ、赤いてるてる坊主にしろ、報道されてるわけではないからな。 今現在で言えば、手紙に書かれているだけで、その他にあった事を示す資料は見つからなかった。 もちろん、差出人がどこの誰かなんざ、わかりっこない。 強いていうならば、手紙の内容が本当だと証明する手だてがない事がわかった」
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加