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「それについちゃ、あらかじめ調査してやってきてるんだ。
手紙の中にいくつか手がかりも書かれてるから、そんなに難しくもなかったしな。
優秀な編集者がいると、仕事もスムーズだわな」
あれ、誰の話をしてるんだろ。
「それで何がわかりました?」
暗記してきたのか、羽下守はやや宙を見上げながら記憶を辿っているようで、酒で喉を潤しつつ話し始める。
「手紙に出てくる淵無って地名の集落だが、これは間違いなく現存するものだ。
N県のS市ってーと、ちと馴染みのない地域だが、大層な山々に囲まれた小さな集落らしいな。
で、1年前に台風の襲来を受けて災害に見舞われたっての、それも事実だな。
当時の地元新聞も大きく取り上げて、被害の状況やらを伝えている。
これに関しては間違いなく間違いない自身がある」
「新聞の報道を鵜呑みにしたくらいで威張らないで下さい。
肝心なのはそれ以降に書かれた内容じゃないですか。
そちらの方の収穫は何かないんですか?」
「ない」
何かしらの答えを期待していた私、素っ気なさ過ぎる羽下守の返答に、口を半開き。
「だってさ、しょうがないじゃないか?
いくら調べても、一家行方不明事件にしろ、赤いてるてる坊主にしろ、報道されてるわけではないからな。
今現在で言えば、手紙に書かれているだけで、その他にあった事を示す資料は見つからなかった。
もちろん、差出人がどこの誰かなんざ、わかりっこない。
強いていうならば、手紙の内容が本当だと証明する手だてがない事がわかった」
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