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「……帰るか」
村瀬は気を取り直し、エンジンをかけてハンドルを切り、車を運転し始める。
ライトをつけ、目一杯の速度でワイパーを起動させるが、打ちつける雨の威力が勝り、視界の悪さは否めない。
「こんな状況で事故ったら厄介だぞ……」
この状況下で対向車も後続車もない、慎重に目をこらしながら車を運転する。
道路は山間部の崖っぷちを整備して造られたもの、一歩間違って運転をあやまろうものなら、たちまち崖から滑り落ちて濁流と化した川底に真っ逆さま。
それを思うと村瀬の背筋がムズムズする。
カナヅチの自分がそんな中に落ちれば、どうなるか……
こうして運転している間にも、どこかで土砂崩れが発生しているのか。
それを思うと頭が重い。
過疎化が進んでめっきり若手が減った集落だ、自分が何もしないわけにはいかない。
また区長の命令で駆り出される運命を思い、村瀬は深くため息をつく……
「ん……?」
運転していた村瀬は何かに気を取られたかのように、ゆっくりとブレーキをかけてスピードを落とす。
「何だ、今のは……」
今、何かの影らしきものが動いた気がした村瀬、停車した車内から外を眺めてみるも、それらしき影はどこにも見られない。
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