01:ドリ☆スターズ旅行社

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01:ドリ☆スターズ旅行社

一 とても奇妙なビルだった。 志村(しむら)タケルは、そのビルを見上げた。 円筒状の高層ビルで、てっぺんが空に吸い込まれるように伸びていて、一階部分にしか窓がない。二階から上はまるで煙突のようなビルなのだ。 いったい、何階まであるんだろう……? 正面入口の二メートルくらい上あたりに、大きな星のマークとロゴがある。 『ドリ☆スターズ旅行社』 タケルはここへ面接を受けに来た。 これまで四十七社で不採用になっていて、今日が四十八回目の就職面接だった。書類選考で落とされた数を含めると、もっと多いのだけれど、恥ずかしいので、それは忘れることにしていた。 面接の心得その1: 『ハリのある元気な声で挑むべし!』 とある本にそう書いてあった。 タケルは腕時計で時間を確かめる。面接の時間まで四十分ある。 「アッ、エッ、イッ、ウッ、エッ、オッ、アッ、オッ」 発声練習で時間をつぶすことにした。 「ちょっと、アンタ。うるさい!」 いきなりだった。タケルは怒鳴り声の方へ、肩をすぼめながら、目を向ける。そこに、赤いミニスカートからスラッとした脚を見せている女性が立っている。長い黒髪を風にゆらしていた。 「こんなところで、何してるわけ?」     
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