深夜の襲撃

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しんと静まり返った夜の道場。   俺と姉ちゃんはふたり並んで正座していた。 久しぶりの道場は、どこか懐かしくて、落ち着く。 まだ小さいころ、俺がぐすぐすと泣きながら正座していると、一緒に正座させられていた姉ちゃんから『うざい。いい加減泣き止め』と八つ当たりされたことを思い出して、思わず小さく笑う。 隣からも、くすりと笑い声が聞こえて、俺は姉ちゃんを見た。 「たぶん、同じこと思い出してた」 姉ちゃんが、愉快そうに言う。 「昔は、ふたりそろってよくこうしてたよな」 たいてい、叱られるようなことをやらかすのは姉ちゃんで、俺は弟という弱い立場上逆らえずに巻き込まれてたような気がするけど。 姉ちゃんがなにを考えてるのか、もう長いつきあいになるけど、今も昔もやっぱりちっともわからない。 「いつも、おまえがとろいから、バレるんだよ」 「なんだよ。だったら、俺を巻き込まないでくれればよかったのに」 俺だって、好き好んで見つかってたわけじゃない。 姉ちゃんの計画が、そもそも無謀だったんだ。 稽古が嫌でじいちゃんの道着を隠そうとしたときも、母さんがあとで食べようと思って俺たちにも隠してとっておいたお菓子を食べようとしたときも。 いつも姉ちゃんは俺を囮にするんだ。 それも、姉ちゃんは思い立ったらすぐ行動って感じで、こっちの心の準備も、支度も、なにもできていない状態で俺をぽいっと放り出すもんだから、俺はついもたついて――。 って俺は誰に対して言い訳してるんだか。 もう、昔のことだ。 いや、今のこの状況も、さして変わらないか。 「これでも、おまえのことを慮っているんだ。姉だからな」 「よく言うよ」 俺は呆れて、肩をすくめた。
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