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もうすぐ夏休みが終わって、学校が始まる。
毎朝きちんと起きて、準備して、電車に駆け込んで、だらだらと続く坂を上る。
――考えるだけで気が滅入ってくる。
ただでさえ暑くて外になんか出たくもないのに。
エアコンをきかせた部屋で、次の日のことなんてなにも気にせず、朝までゲームしたりネット巡回したりっていう生活があと少しでおしまいだなんて、考えたくない。
課題がまだ残ってることなんて、考えたくない。
学校に行ったらあいつと会わないといけないことも、考えたく――。
「ハヤト! 刀をとれ!」
バアン、と俺の部屋のドアが勢いよく開かた。
立っているのは、俺のふたつ上の姉ちゃん。
何故か、手には鞘に入ったままの二振りの刀を握っていて、そのうち一振りを俺に向かって差し出している。
「はあ!? なんだよ、突然。ていうか、今何時だと思ってんだよ?」
スマホを見れば、2:45という数字が見える。
普通なら、たいていの人は寝てる時間だ。
「なにも訊かず刀をとれ。今宵の虎徹は血に飢えているんだ!」
「姉ちゃん……」
明らかにおかしいこの状況で、なにも訊くなってどういうことなのさ。
そもそもその刀は虎徹じゃないだろ。
――大学生の姉ちゃんが、高校生の俺より長い夏休みを満喫してそうなことには気づいてた。
俺みたいに、夜型の生活をしてるってことも。
夜中にせっせと二次創作にいそしんでいることも知ってる。
でも、だからって、まさかこんな時間に刀を持った姉ちゃんに襲撃されるとは、思ってもみなかった。
中学のときの体操服だったハーフパンツと、首がのびかけたTシャツを着て、仁王立ちになっている姉ちゃんを見る。
普段外ではコンタクトをしていて、家の中でだけかけている赤縁眼鏡の奥の瞳に、一切の揺らぎはない。
なにかやばいスイッチが入ってるな、これ……。
「早くしろ」
急かされて、俺は嘆息する。
つきあわないと解放されなさそうな雰囲気を感じ取った俺は、考えることを諦めて差し出された刀を受け取った。
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