深夜の襲撃

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空には半分に欠けた月が浮かんでいる。 裸足のまま庭に飛び出した俺に続いて、姉ちゃんがずざざざっと縁側からジャンプして勢いよく着地した。 互いに、木刀の先を相手に向ける。 俺は模造刀のほうを、脇へ放った。 「あっ、おまえ!」 「だって、木刀と模造刀両方持ってたらやりにくいだろ」 「むぅ」 小さく唸る姉ちゃんを前に、やれやれ、と俺は嘆息する。 俺も姉ちゃんも、小さいころから剣道を習ってた。 なんなら、今俺たちが立っているこの庭のすぐ隣には道場が建っていて、俺たちのじいちゃんは師範だ。 今はもう、姉ちゃんも俺も、昔ほど熱心に稽古をしてるわけじゃないけど、動きは体が覚えてる。 「それで? いったいどうしたんだよ、姉ちゃん」 一応、訊いてみる。 「ようやく観念したか」 「観念っていうか……まあ、ある意味そうだけど」 つきあってやらないと、きっといつまでも終わらないから、仕方なくつきあうことにした。 これはまあ、観念したってことだろう。 「いい覚悟だ」 覚悟、ねぇ。 いい年した姉弟が、深夜に裸足で庭に立って、木刀を構えている。 互いに着古した部屋着姿なのが、なんともいえないリアリティがあって笑える。 ここまできたんだ。 どうせやるなら、乗ってやるのもいいか――。 「いざ、尋常に勝負!」 俺が言うと、姉ちゃんがにやりと片方の口の端を上げて笑った。
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