1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
空には半分に欠けた月が浮かんでいる。
裸足のまま庭に飛び出した俺に続いて、姉ちゃんがずざざざっと縁側からジャンプして勢いよく着地した。
互いに、木刀の先を相手に向ける。
俺は模造刀のほうを、脇へ放った。
「あっ、おまえ!」
「だって、木刀と模造刀両方持ってたらやりにくいだろ」
「むぅ」
小さく唸る姉ちゃんを前に、やれやれ、と俺は嘆息する。
俺も姉ちゃんも、小さいころから剣道を習ってた。
なんなら、今俺たちが立っているこの庭のすぐ隣には道場が建っていて、俺たちのじいちゃんは師範だ。
今はもう、姉ちゃんも俺も、昔ほど熱心に稽古をしてるわけじゃないけど、動きは体が覚えてる。
「それで? いったいどうしたんだよ、姉ちゃん」
一応、訊いてみる。
「ようやく観念したか」
「観念っていうか……まあ、ある意味そうだけど」
つきあってやらないと、きっといつまでも終わらないから、仕方なくつきあうことにした。
これはまあ、観念したってことだろう。
「いい覚悟だ」
覚悟、ねぇ。
いい年した姉弟が、深夜に裸足で庭に立って、木刀を構えている。
互いに着古した部屋着姿なのが、なんともいえないリアリティがあって笑える。
ここまできたんだ。
どうせやるなら、乗ってやるのもいいか――。
「いざ、尋常に勝負!」
俺が言うと、姉ちゃんがにやりと片方の口の端を上げて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!