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雨
止まない雨を透明な傘越しに見上げる。
もう少しで止むのか、ポツポツと小振りになってきた。そろそろ止むのかもしれない。
「…私は雨が苦手です」
隣に並ぶ男にそう溢すと、
「そうなんだ、僕は逆に好きだな。多過ぎるのはちょっと遠慮したいけど」
「雨のオカゲで好きな植物や僕達の飲み水になっているのって雨のオカゲだと思うんだよね。勿論そのまま使うんじゃなくって濾過するけど。加々知はどうして苦手なの?」
灯と呼ぶのは遠慮して貰いたいと言われてから鬼灯から加々知と呼ぶようになった。灯でも良いと僕は思うのだけど、本人はそれを良しとしない。
「湿気で頭が爆発するんですよ。これでもかってくらい」
一つの傘にぎゅうぎゅうに入っている為か肩身が狭い。天気予報では今日は雨が降らないと伝えていた筈なのに。この傘も近くにあったコンビニで購入したものだ。
「爆発した加々知の頭見てみたいかもwww」
「白澤さんは?」
「僕も…酷いか。鏡見て誰お前?になる!前にタオくんに寝起きの写真見せたら“誰っすか?”て言われちゃった」
「それほど酷いんですね」
それはそれで見てみたいかも。クルクルと傘を回せば水飛沫が飛んで行く。
「その言い方も酷いなぁ」
ケラケラと笑う白さんにつられて私も笑う。
「でもどうしたの?いきなり雨が苦手って」
「…もしも私がこの世から居なくなったらを考えまして」
傘を回すのをやめて白さんの方を向く。
「……え……?」
「苦手だと言って置きながらこう思うのはどうかと思ったんですけど、この世から居なくなったら雨になりたいと思いました」
「……ど…して…?」
「さぁ?突発的に思い付いたので。ただ、雨ならば私の声が届かずとも雨粒となって貴方に触れられるんじゃないか、貴方が泣いてても他の雨粒と一緒に流してくれるんじゃないかと……他意は無いんですよ」
ぎゅっと白澤さんが私の袖を引いたので、私は歩くのをやめ向き直る。少し伸びてしまった服ごと白さんを抱きしめた。傘が傾いたけれど濡れるのもいとわず、ぎゅっと抱きしめる。
「いきなり消えるの無しだし嫌だからな」
「…人生何が起こるか解りませんのでその約束は出来兼ねます。なので決して切れない楔で私を縛って下さい」
運命という赤い楔で。
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