〇〇になりたくて

5/5
前へ
/6ページ
次へ
素直 「君ねぇもう少し素直になりなよ」 まだ会社勤めに勤しんでいる時に閻魔課長から言われた事がある。 私自身は割と素直に接しているつもりだったのだが、取引先へ訪問に行けば、睨んでいないのに睨まれているようだと勘違いされる。こちらの立場になってみてよ、と小言を言われた事があった。持って生まれたこの顔を変えろだと?整形でもしろと言うのか!と逆切れした事もあったな。 「そういう意味じゃなくって、もっと愛そう良く接しろって言ってるの! 自分の立場で考えてみてよ。愛そう良く商品を売り込むのと、睨みを利かせて売り込むのとでは気持ち良く買えるのと、脅されて買わされた違いが出て来るの!」 と言っていたけど、別に睨みつけてはいない。真剣に我が社の商品を売って行きたいと言う意思を持って紹介しているだけだ。それを相手側だけで判断されるのは…いや、それが商売だと言われればそれまでなんだが。納得は…出来そうにない。 「どう思います?」 雑誌に目を通している白さんに尋ねると、 「加々知の内側を知る人は素直な部分も解ると思うよ。外側ばかり見てる人は加々知の好さをまだ解っていないだけじゃないかな」 雑誌を横に置いた白澤さんが優しく私の髪を梳いた。サワサワと頭を撫でるかのように優しく。 「白澤さんはどちらですか?」 「さぁ、どっちだと思う?」 「質問を質問で返すのは無しです」 「どちらかと言えば、まだ半々だと思うんだ。知っている事もあればまだ知らない事もあるからね。加々知だってまだ僕の知らないところあるでしょ?明るみに出ている部分だけが僕じゃないように、一種の闇を抱えたのもまた僕だし。それと同じさ、納得した?」 「…納得しました」 多分。 だけど自分が考えていた言葉より白さんが私に言った言葉がすんなりと受け入れられたのは、私も少なからず”白澤さんを知った”からの賜物だと思いたい。 「私は貴方に出逢えて良かったです」 「僕も出逢えて良かった。これからも(未来永劫)宜しくね」 「ハイ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加