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そちらにみんなの意識が向いている間に慌てて小用を足し、教室に戻ろうとした時、ひときわ大きな質問の声がトイレ中に響いた。
「中にいるのは妖怪ですか?」
「違います」
はっきりとした声が個室から返る。その直後、個室の扉が開いた。
気になり、チラと覗いたトイレの中には誰の姿もなかった。
今の声はいったい誰がどこから発したのか。気になり、その場で足を止めた僕同様、いじめっ子達も不審そうにきょうろきょろと周りを見ている。
そんな状況の中、またどこかからさっきと同じ声が響いた。
「僕は妖怪ではなく■■■です。その正体は鏡の中」
種明かしのように弾んだ声がそう告げる。それに反射で鏡の方を見そうになったが、嫌な予感が意識を駆け抜け、僕はトイレの外に出た。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
背後からいじめっ子達の絶叫が響いたのは次の瞬間のことだった。
すぐに生徒や先生がトイレに駆けつけ、程なく呼ばれた救急車に乗せられ、いじめっ子達は病院へ搬送された。
この件は、表向きは集団熱中症として校内発表されたが、僕は本当の理由を知っている。
トイレの中にいた何か。それを見てアイツらは倒れたんだ。
幸か不幸か、いじめっ子達は翌日には学校に来ることができたが、全員以前のような、よく言えば元気、悪く言えばのさばるような感じではなくなり、今はむしろ仕返しとばかりに、クラスの全員に冷たくあしらわれながら毎日を送っている。
あの連中を一度に昏倒させ、性格までも変えてしまったトイレの何か。声は聞いたけれど、自己紹介部分はきーはっきりとは聞き取れず、あの場にいたのに鏡に映ったその姿を見ることもなかった僕は、かなり幸運だったに違いない。
妖怪ですか…完
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