ナツコイ。

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大きな通りで車を降りて路地裏に入ると案の定ホテルはすぐに見つかった。じっと外観を眺めていたが御厨は「行こう」と先頭に立ち中へと入っていく。 が、入ってすぐのパネルの前で固まってしまった。 「フロントとかないのか」 「そういうホテルもあるけど、顔を合わせないで済むほうが気楽でしょ?」 それとなく良さそうな部屋を選び鍵を受け取った。 誰もいない静かな廊下を進む。 御厨も無言でついてきた。 たくさん並ぶドアの向こうではみんなが同じような行為に励んでいるのかと思うとシュールで笑えてくる。 エレベーターが上昇する中で抱き寄せてキスをした。さっきまでガチガチに閉じられていた唇は覚えがよくほころびを見せている。 「まさかこんなことになるなんてさっきまで想像もしてなかったよ」 「……そうだね」 部屋にたどり着くと御厨は不思議そうに部屋の中を見てまわり「へえ」と感嘆の声を上げた。 「ちゃんとしたホテルなんだ」 「どういうの想像してたんだよ」 「昔ドラマで見たのにはプールがあったり、大きなブランコがあったり、メリーゴーランドがあった」 部屋の真ん中に大きなベッドがひとつだけの潔いまでの部屋に驚いたらしい。おれにしてみればプールなんかが部屋にあったら驚く。 「これが普通の作りなんじゃないのかな」
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