ナツコイ。

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セックスなんて誰とだってできるし、誰とやったって大して変わらないと思っていた。多分今まで体を繋げた相手のほとんどはおれと同じ。ただやりたいだけでちょうどいい相手を求めていただけだ。 こんなに求められて幸せだと笑いかけてくれた相手なんていなかった。 もしかしたら、おれを好きだと思ってくれていた人もいたのかもしれない。それに気づけないまま欲望だけを処理していたおれは大バカ者かもしれない。 御厨のいじらしさに込み上げてくるこの気持ちはなんなのだろう。 大切にしたい、と思えてしまうような、何か。 優しいキスを交わしながら、おれは御厨の体を探り始める。 敏感で従順な体はおれの施す刺激に可愛いくらい応えてくれる。 愛おしい___急激に込み上げてくる感情に涙が出そうになる。 「御厨」 名前を呼べば恥ずかしげに視線を上げおれを見つめ返してくる。 「好きだよ」 「蜂矢……」 御厨は困ったように眉を下げ、キスで返してきた。 「それがマナーなの?」 御厨こそ泣き出す手前のような表情を浮かべおれの頬を両手で包んだ。 「エッチするときの常套句なんでしょ」 「違う」 「優しいね、蜂矢は」 細い指先で唇をなぞりながら柔らかく笑う。 「おれは初めてだし、いい思い出にしてくれようと尽くしてくれてるんだよね。ありがとう」 そうじゃない、と伝えたいのにいまのおれにはそれを信用してもらうすべは何もなかった。今までの行いが信頼に値しないことくらいおれにもわかる。
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