ナツコイ。

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 買い物に行ったのかもしれないと前向きに考えて待ってみたけど、それきり御厨は戻ってはこなかった。  外に出ると今日もやる気が満々の太陽がじりじりとおれを照らした。いかがわしいことをした後は太陽の当たりが強い気がするのは気のせいなんだろうか。  おれはこれからどうしようかとほんの少しだけ考え、やはり御厨に会いに行ってみようと決めた。  このまま終わらせるなんて、絶対に嫌だ。  とりあえず一度実家に戻ることにした。個人情報がザルだった時代だ。連絡先が書いてあったはず。  数年ぶりに玄関をくぐると母親が驚いた様子でおれを迎える。連絡もしないで帰ってきたらそりゃ驚くだろう。  エプロンで手をふきながら珍しい生き物をみるような訝し気な目つきでおれをじっと見た。 「本物?あんたどしたの?」 「本物だよ。ちょっと用事あって……昨日墓参りも行ったよ。つか腹減ったからごはんちょうだい」  実家は昔と何も変わっていなくて、懐かしいにおいがした。  ここで毎日暮らして、学校に行って、ばかなことをして、悩んだりイラついたりしたんだったなあと学生時代を懐かしく思い出す。  今まで思い出なんて無駄だしいらないと思っていたのに、御厨にあったからだろうか、やけにセンチメンタルな気分になる。 「そーいえばおれの卒アルどこにある?」  ご飯にお味噌汁、焼鮭といったTHE朝食といったものを口に入れながら問いかけると、部屋に置いたままだという。
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