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食事を終えて自分の部屋に向かうと、時間が戻ったかのような錯覚に陥るほど昔のままだった。
出て行ったきり何年も帰ってこない息子のために、そのまま残していてくれたのかと思うと胸が痛んだ。
何かを勘違いしてかっこつけて、地元にはもう用がないと切り捨てたおれを大切に待っていてくれた人がいた。そのことに、ようやく思い当たる。
祖母もそうだったんだろうか。
やんちゃで危なっかしいおれを、遠く離れたここでずっと想っていてくれたんだろうか。
アルバムはすぐに見つかった。
教科書などが置いある棚の中でほこりをかぶったままおれを待っていた。
開くと懐かしい校舎がそこにあった。
昨日は部外者お断りとつれない顔をしてみたくせに、アルバムの中の学校は確かにおれたちの学校だった。
「うわ。懐かし。若いなー」
クラスごとに神妙な顔つきで写っているかつての友人たち。いろんなことを話したり、ばかなことをしてたくさん笑いあった。同じ時代の空気を吸って時間を共有していた彼らをなんでいらないと決めつけることができたんだろう。
「あ、御厨」
腕の中でとろけるように身をしならせた御厨とはまた違う初々しさがある。生真面目そうに、色が白くて、繊細な姿で過去の中にいる。
「やっぱ美人だよなー。このころからおれのこと好きだったんだって、なんかけっこうくるものがあるよなあ」
クラスごとのスナップショットでは同じ写真の中に納まっているものは一枚もなかった。それくらい遠い存在だった御厨とこんな関係になるなんて人生って何が起こるかわからない。
最後のページには案の定住所と電話番号が載っていた。
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