ナツコイ。

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「どうすっかなー」  携帯の画面をにらみながら考える。  さすがに家の電話にかけるには敷居が高すぎる。個人にチャチャっと連絡が取れるこの時代。  昔はよく平気で実家に電話をして、先方の親と話しながら繋いでもらったんだよな。今なら信じられないくらいだ。  かといって突然家に押し掛けるのもどうだろう。  なんで先に連絡先の交換をしなかったのかと悔やまれた。 「うーん……」と唸っていると突然電話が着信を告げた。 「うわ!っもービビったあ」  見ると知らない番号からで、もしかして……と淡い期待が持ち上がる。ドキドキしながら通話を押すと、先方からは慌てたような声が聞こえてきた。 「蜂矢?」  御厨の声ではなかった。 「そうですけど」 「あーよかった、おれおれ。わかる?本橋」 「え……っと、」  おれおれ詐欺のような出かたをした電話の相手の名前を反芻して、思い当たった。確か、今見ているアルバムの名簿にそんなような名前がある。 「本橋……」 「そう、よかったー繋がって」  フレンドリーに話しかけてくる本橋の顔をアルバムで探すと、いた。御厨の隣でうれしそうに笑っている。そうだ御厨の取り巻きで、いつもそばでうろついていた本橋だ。 「え、なんでこの番号知ってんの?」 「それはいいからさ、驚くなよ……」  その先はあまりにも嘘くさくて信用できない話だった。興奮気味に話す本橋の顔を想像して、こいつ虚言癖とかあったかなあ、と頭をひねった。  だって、そんなはずがない。  そもそも口をきいたことのない本橋がおれに連絡をしてくること自体がおかしい。やっぱおれおれ詐欺だ。  だって、信じる理由がどこにもない___御厨が死んだなんて。
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