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「お前さあ、ふざけんのもいい加減にしろよな」
思わず固い声が出た。言っていいことと悪いことの区別もつかないまま大人になってしまったなんて、残念にもほどがある。
「どうやってこの番号知ったわけ?名簿とか売られてんのかもしかして。危ない商売やってんならやめろよな」
親切心で忠告したら本橋はむっとしたように声を尖らせ「ふざけてないから」と突き放すように答えた。
「蜂矢みたいにさっさとここを捨ててどこかでお気楽に楽しくやってきたやつにはわからなかったと思うけど、冗談でもないしふざけてもない」
思ってもいない反撃だった。
「別に捨ててないし」
「だって帰ってこなかっただろ?同窓会の案内も無視、盆と正月には集まってることも、みんなで御厨のお見舞いに行ってたことも知らなかっただろ」
「お見舞い?」
いったい何を言ってるんだろう。
確かに病弱そうではあったけど、御厨はどこもおかしくなかったし、セックスの最中だって普通だった。何が普通かはよくわからないけど。
あ。と思い当たった。
もしかして体調がすぐれなくて先に帰ったのか?そうだったなら声をかけてくれればよかったのに。ちゃんと家まで送っていく。
「でも、昨日は元気そうだったけど」
反論すると本橋は黙り込んでしまった。
やっぱり質の悪い冗談だったのだろう。まさか昨日会っているなんて考えもしなかったのだ。引っかけてしまうやろうと思ったのかもしれないけど残念だったな。
「じゃあな」とばかげた茶番を終わらせようと電話を切りかけたら、本橋は小さく呟いた。
「それはない。だって昨日から危篤状態だったんだから……」
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