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「あの……おれ、御厨とは高校の時の同級生で蜂矢といいます……」
どう説明すればいいのかわからず頭をかきながら名前を告げると御厨の母親は驚いたように目を見開きおれの顔を覗き込んだ。
「蜂矢くん?」
「はいそうです。御厨が……あの、それって本当ですか?」
「蜂矢くんて、本物の蜂矢くん?」
母親の瞳にみるみる涙がたまっていく。
ぎょっとしていると突然母親は泣き崩れた。
「えっ、ちょっ、お母さん?!」
「うそみたい。あの子……」
玄関先で泣き続ける姿にどうしていいのかわからず「大丈夫ですか」と声をかけるしかできない。
しばらく泣いていた彼女は恥ずかしそうに涙を拭いて立ち上がった。その照れるしぐさが御厨にそっくりだった。
「ごめんなさいね。ちょっと驚いてしまって……」
「いえ」
促され家の中へとお邪魔した。
親戚と思しき人たちがひそひそと声を交わし、悲しみに明け暮れている。祖母が亡くなった時の自分たちもこんな感じだった。
「会ってあげてくれる?」
花の匂いと線香でむせ返るほどだった。
その片隅に真っ白い布団が敷かれ、ハンカチをかけられた誰かが眠っている。それが御厨だとは信じたくはなかった。
おれは急に怖くなった。
自分が経験しているこれは夢なんじゃないだろうか。だとしたらいつからが夢で何が現実なのか。
あまりの暑さにどうかなってしまったのかもしれない。
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