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「高校に入ってすぐだったかな。楽しそうに学校から帰ってくるようになって……何かあったの?って聞いても何でもないって。でも時々嬉しそうに話すのよ。クラスメイトに蜂矢っているんだけど、って」
それは今まで見たことのない明るい笑顔だったと彼女は笑った。
「こんないたずらしてたとか、こんな悪さをしててでも憎めないんだよねって、いつも蜂矢くんの武勇伝を教えてくれてね。仲のいいお友ができてよかったねって言ったら違うよって。ただ見てるだけだっていうの」
口をきいてもいない。
友達でもない。
だけどずっと視線で追いかけてしまう存在。
「いつの間にかうちでは蜂矢くんは有名人でね。ごめんね、会ったことがないのに知ってる子みたいに思ってた」
「ロクでもないことばかり話されてたと思うんですけど……」
高校時代の黒歴史が拡散されていただなんて、御厨が家でそんなことを話してるなんて想像したこともなかった。
おれはほとんど彼の存在を気にも留めていなかったというのに。
「ふふ面白かったわよ。でね、ある時夢心地に言ったのよ。今日、蜂矢が保健室に運んでくれたんだって。夢みたいだったって、それはとても幸せそうに」
彼女は愛おしそうに御厨のほほを撫で続けている。
そして俺のほうを向くと、少女のようにはにかんで笑みを浮かべた。
「あのね。こんな事……話していいのかわからないんだけど……。昨日から光は意識が戻らなくてもうどうなるかわからないって言われていたんだけどね、今朝方かな、ふっと目を開けて幸せそうに微笑んだのよ」
お母さん、おれは本当に幸せ者だ。
夢が叶って、蜂矢は優しくて、もう嬉しくて仕方ないんだ。
「はっきりとした意識をもってそう話してくれたの」
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