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「本当に……おれはバカなんです。そういうこと全然気がつけず、恥ずかしいくらい子供でひどい人間だった。御厨にそんな風に思ってもらえるような人間じゃない。だけど彼と会って、一緒に過ごして……それじゃダメなんだってわかったんです。これから。御厨と一緒にもっと変わっていきたいと思ってた、の、に……」
のどに何かが詰まったようになって先の言葉が出てこなかった。ふいにボロボロと涙がこぼれ落ちる。床に楕円の水がたまっていく。
「うそだろ、御厨っ」
揺さぶっても、抱きしめても、もう動かない。
冷たくかたい姿のまま横たわっているだけだった。
二人で並んでベッドに転がっていた時みたいに柔らかく笑ってほしい。
恥ずかしそうに視線を外しながらも、おれに触れてほしい。
好きだよってまた言ってほしい。
おれの気持ちもちゃんと聞いてほしい。
「御厨。なあ、これからだったろ?せっかく10年の空白があっても、また再会できたんだろ。お前がおれを求めてくれたんだろ。なあ。置いていくなよ」
「蜂矢くんっ」
思わず抱き起そうとしたところを止められた。彼女の細い腕も小さく震えている。
「……すみません」
「ううん」
彼女はおれを強く抱きしめた。
御厨の匂いによく似た甘い香りがした。
「ありがとう。あの子は最後にあなたに会えたのね。だからあんな風に幸せそうだったのね。あなたが来てくれたのを知った時、まさかって思ったのと同時に、やっぱりっていう気持ちもあった。あなたが最後に光と過ごしてくれていたのね」
「……っううっ」
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