ごめんなさい、と呟いた。

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――タクミと…付き合ってるってことに、なるのかな。  彼らに嫉妬がない、と言えば嘘になる。  でもその理由はきっと、多くの人が想像するものとは大きく異なるものだろう。 ――好きとか、お互い言ってないけど。付き合ってるって、思ってもいいのかな。  最初は、一緒にいると楽しい人だな、くらいの認識だった。それが、明確に形を変えたのはいつの時からだっただろう。  真琴と一緒にゲームのイベントに行って、子供みたいにはしゃぐ彼を見たときだろうか。  バレンタインの時に、歪な手作りチョコを恐る恐る渡した時の、向日葵のような笑顔を見た時だろうか。  それとも、真琴の帽子が風で飛ばされてしまった時、全力で追いかけて、転んで砂まみれになってでも拾いにいってくれたのを見た時だっただろうか。  気がついた時にはもう、全部が手遅れだった。タクミがすること全部が気になって仕方なくなって、彼の一挙一動に馬鹿みたいに一喜一憂している自分に気がついて――これが恋だと、明確に自覚することになったのである。 ――人を好きになると、幸せになれるって、よく言ってたっけ。それとも、漫画の台詞だっけ。  顔を伏せていても、恋人達の楽しそうな話し声は聞こえてくる。  耳を塞いでしまいたい。タクミの声だけ聞こえるようにできたらどれほどよかったことか。
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