ごめんなさい、と呟いた。

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――ほんと、そんなの嘘っぱちじゃん。……恋なんてしたって、苦しいだけじゃん。どうすれば良かったのさ。サークルに参加したのが間違いだったってこと?  涙が滲みそうになる。タクミが、好きだ。もしも彼が同じ気持ちでいてくれたら天にも登る心地だと思う。そうでなくても、デート扱いしてくれるならもうそれで充分だ。親には友達と遊ぶだなんて嘘をついて、こっそりタクミと会うのを繰り返している日々。もうすぐ、出会って一年になる。――二人で一緒に海に行きたいね、と言われて。どうすればいいかわからなくなっている、自分がいる。  幸せなのに。もっとこの時間が続けばいいと願っているのに。それが許されないことを知っているからこそ、考えれば考えるだけ足下から沈んでいきそうになるのである。  タクミなら、女の子なんて選り取り緑のはずなのだ。彼のことを本気で好きになって、本気で助けてくれて、いい奥さんになってくれる女の子なんてこれからの人生いくらでも現れるはずだろう。なら、そこに自分はいてはいけないのだ。自分の存在は、彼の人生の足枷にしかならない。そしてそれは――自分達の年齢が離れているから、なんていう、そんな話ではないのである。 ――ああ、嫌いだ。この時間が本当に…嫌いだ。  待ち合わせに早く来すぎて、待っているこの時間が本当に嫌いだった。  待っていればいるだけ、余計なことばかり考えてしまう。見なくていいものばかり見えてしまう。手を繋いで歩くカップル達に妬みを向ける自分が嫌いだ。タクミが来なかったらどうしよう、なんて彼を信じることのできない自分が本当に嫌いだ。  真琴は、人生で一度たりとも、自分自身を好きになれたことがないのである。  だって、自分は――本当の、自分は。
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